2006年 12月 28日
そこまで見せなくても |
いいのにねぇ
ってくらいに堪能させていただきました。
The Backwaters
辞書(ジーニアス英和辞典)で調べたならば、
1、戻り水、逆流、よどみ/2、(心の)沈滞、スランプ;辺地、僻地(へきち)
えっ!
あの男もとうとうスランプ突入か?
などと気色ばんでくださったみなさん、御愁傷様です。当然のごとくわたしが楽しんだのは1の方。いや、でもちょっと違うんだよね。
英語をかじったことのある人ならご想像の通り、わたしが堪能したこの日のお題は「backwater」ではなくて「The ~s」。つまりは「The Beatles」と同じくらいに完全な固有名詞。
この場合だと、
「ケララ州南部に点在する池や湖、川と、それを繋ぐために張り巡らされた広大すぎる運河網」
を総称して指すわけでありますな。
どれくらい広大かっていうと、
アラビア海のほぼ海岸線沿いにあるアレッピーとクイロンという2つの町(直線距離で約120〜30km)の間を一度も海に出ることなく、時に幅5mほどしかない水路を抜け、時に四方陸から数キロは離れたような湖の上を優雅に揺られながら都合約8時間(公称)のクルーズが楽しめる
くらいにばかでかい。
わたしたちツーリストは、ルート上にあるヤシの木、水辺に暮らす人たちの生活、そしてヤシの木という、これ以上ない典型的な「ケララ」をボートの上からぼけぇっと眺めてりゃいいだけ。優雅なもんです。
ボートは上述両都市をそれぞれ午前10時半に出発(Rs.250〜300)するんで、わたしはコーチンの町を朝7時半に離れ、そして1時間半後、アレッピー到着。
とにかくあとは一直往南走(ひたすら南へ)
今はなつかし、バンコクどぶ川クルーズ(フアランポーン駅ーバンランプー市場)を彷彿とさせるような重油色、さらに吐いた直後の口の中のような臭いのする運河を進み始めるボート。
でも船内は西洋人ツーリスト、インド人家族づれで足の踏み場もないくらいの盛況ぶり。
とにかく写真で見たような場所まで早くつれてっておくれ
そればかりを念じるわたしの気持ちを更にじらすよう、ボートはゆっくりゆっくりと一直往南走。
水面からようやく人工的なゴミが消え去ったのは約20分後、何とか水の色も黒濁色を抜け出しました。
両岸にはずっとヤシの木。そして時々民家。
やっぱり人のいるところの方が見ているこっちも心持ち身を乗り出してしまうわけで、
洗濯する人、自分を洗濯する人、泳ぐ人、魚とる人、砂や砂利を運ぶ人、こちらの船に手を振る人、「ペンをくれぇ〜〜〜」と断末魔のような叫び声をあげる小学生風、ただ座ってる人、立ってる人
全ての生活がこの川沿いだけでまかなわれてるんじゃないかって考えられるくらい、いろんな人たちがいろんなことをしている、バックウオーターのほとり。
ボートの出発する時間が時間だったからなのか、ぎんぎんの太陽の下、田んぼや畑で精を出す姿は皆無。みなさん働くのは日が昇る前とその後、何十代も前の先祖の時代から続く、そのままの生活なんでしょう。
本当にいったいいつの時代にこの運河網はできたのか。このボートは、まったく解説する人のいない「移動だけ」のツアーだったもんで、その辺ももうちょっと知りたくなるほど、興味のつきない風景なのでした。
さて、わたしたちは午後1時半すぎに昼食休憩、午後5時前にお茶休憩のため、それぞれ停船、上陸。
この休憩の時間自体、予定時刻から着実に遅れていっているのがじゃっかん気になりつつも、アールグレイ風の紅茶葉でいれた「チャイ(ミルクティー)」の味にまたしても最近の悪い癖でおなじみになった「大げさな驚き」を感じるなど、ご満悦度はかなりハイポンントをキープ。
で、いつしか時刻は6時過ぎ。
もう太陽も地平線の彼方に消えましたし、ちゃんと夕日のシーンも撮影しました。
予定は6時半着だったよね。
そろそろかな。
うん、分かってる。
まだ全然着かないってことくらい。
なぜそんなに遅れるのか、まったくトラブルらしきことはなかったこの日のクルーズ。
ところがそんな疑問も間もなく氷解しました。
とっぷり日が暮れてヤシの木のシルエットすら分からなくなった頃、水平線上にぽつん、ぽつんと浮かびだした白い明かりたち。
遠近感も掴めないような漆黒の向こう側にあるそんな明かりたちは、全て漁り火で、360度見渡せば、その数10や20ではなし。
そうです。
この漁り火たちこそ、ケララ州の絵はがきなどでは必ず登場するフィッシュネットがお仕事を始めた合図。
巨大な網を水面下にひそませ、その上に白熱灯をともし、魚たちが光によせられ集まってきたところで一気にすくい上げる
という、なんとも優雅(のんびりさんたちの)な漁法。
この光景はよろしい。
見るに値する。
そうか、この光景を見せるための「善意の遅刻」だったんだ!
スケジュール通りに運行してしまってはいくら日の遅い冬の時期といっても、これだけ幻想的な光景を拝むことないまま、午後6時半、クイロンに到着してしまうではないか。
はたしてこれは、インド旅行のトラブルから身を守るため本能的に身につけた「自衛的善意の解釈」なのか、それともツアーオペレーターの狙いの本筋をついた指摘なのか。
それはまあどうでもいいんだけど、これだけはいえること。
バックウオーターを見てみたい、という人はぜひ、アレッピー発(南下)の便にしましょう。アレッピー行き(北上)に乗っちゃうと、光景がどんどん、どんどんしょぼくなっちゃいますから…
それではよい旅を!
by itoyamamakoto
| 2006-12-28 18:36
| またまた旅に出ました