2007年 05月 10日
"きょん"で3年皆勤賞 |
火鍋のかほりに誘われ、あれよ、あれよという間に四川に到着してしまいました。
午前3時すぎにデリーを飛び立った中国国際航空機は予定通り正午前には北京空港に到着
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10ヶ月以上使ってなかった携帯電話もさいわい番号の有効期限は切れてなかったようで、インドSIMカードを中国SIMに着せ替えて空港内のカウンターで50元分の補充カードを購入すればすぐに使用可能に
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空港到着ホールにあったシティバンクのATMからもスムーズに現金が引き落とせ、成都行き航空券を50%割引で購入成功
ここまでスムーズに事が運んでしまうなんて、中国、いったいどうしたんだ?
と思うくらいに順調でした。
ってなわけで、大規模地下鉄工事実施中でてんやわんやの人民南路でエアポートバスを下車。
そのまま歩いて懐かしの西南民族大学校舎を訪ねれば、校内にも変化の兆し。新しくなった校医院の建物やマンションなどなど。
一方で何も変わらない一角のアパート2階にある塾長宅、てっきり誰もいない部屋で主の帰りを待つことばかり想像してたのに、合い鍵使って扉を開ければそこは思いがけない展開。
「あっ、どうもこんにちわ」
とわたしを迎える恰幅のよい女性。
(えっ、だれだ?)
(部屋間違えたか?)
(でも合い鍵使ってあいたしな)
(塾長の新しい彼女か?)
(俺を見ても全く怪しんでないし…)
「おかえりなさい」
「…」
脳みそフル回転で状況理解に努めるわたし。走馬燈のようなイメージの展開。と、同時に少しずつよみがえっていく記憶。そして結論…
(びっ、美人秘書じゃないですか!)
(なんたる発福了!)
わたしが民族大学でチベット語を学んでいた当時から、同大日本語科4年生にして四川の女性にしては珍しいがっしり型の体型だった彼女。それがもう、昔の面影を顔の中心部分にかすかに残すだけになるほどに発福(幸せ太り)されておりました。
9月から始まる重慶での大学院進学を前に、現在は日本語学校成都支部の代表代行として生徒募集に奔走しているという彼女。リュックをかつての定位置においてひとしきり話を交わせば、本日は塾長の29回目の誕生日ということで仕事を一足早く切り上げ、部屋で特別料理を準備中だということ。
そういえば、部屋に充満するのはおでんの下準備の時のような香り。筋がことこと煮込まれるにつれて醸し出される動物的な香りとでもいいましょうか。
そして元美人秘書から決定的なひとこと。
「誕生日だから『きょん』を食べるね」
「え〜〜〜っ、まぁじっすか!」
そういって鍋のふたを開ける元美(笑)。ぐつぐつ音を立てて煮込まれる肉の塊。
こっ、これが、あの、幻の動物にして禁断の味「じいず」なのか。
なんたる幸運。わざわざ成都に寄り道した意味をわれ、ここに見つけたり!
ところで、
話の筋について行けてない大多数の読者の皆様へ。
「きょん(じいず)」とは何ぞや?
2005年12月16日の日記「美人秘書よ。お前もか」で初登場して以来、当時は各方面の話題を独り占め。この家の主である塾長にもかなりお気に入りになっていただいたんで、改めて当日の日記をここに引用いたしましょう。
舞台設定:西南民族大学近くの某火鍋屋
登場人物:美人秘書(中国人)、ビッキー(日系四川人)、わたし(当時日本人)
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さて世間はクリスマスムード一色で、成都でもなかなか赤と白のコントラストを見かけるようになったのですが、何故か悲しき三人衆。この話題にはほぼ素通りで、すでに中国の旧正月「春節」について。
「もう春節準備始まってるんだよね。ぶたを絞めちゃったりして」
「そうね。家でも色んな肉をつるして干してるね」(美)
「香腸とかでしょ。あれつるすと美味しくなんの」
「生の肉とは味が変わるね」
「歯ごたえが良くなるってこと?」(ビッキー)
「そうね」(美)
「どんな肉をつるすの?」
「たくさん。十種類くらいかな」
「何があんのか教えてよ」
「まず豚肉。香腸も生肉固まりも。牛も鳥も」(美)
「よく食うよね。中国人って」
閑話休題。ひとしきりまた鍋に神経を集中。
「ああ、あとji3zi(じいず)もあるね」(美)
「じいず?きいたことないなあ。見た感じどんな?」
「前脚が短くて後ろ脚が長くて。野山を走るのがとても早い」(美)
「あと…、保護された動物ね」
「うおう。きてるねぇ。よく分からんけど危ない橋渡ってそうじゃない」
「大きさはこのくらい(両手広げてだいたい40センチ)」(美)
「うおう。いたいけ小動物って感じだし」
「ちょっと字に書いてみてよ」
戻ってきたメモ帳を眺めてみると
「鹿子」の文字
「なんだ。シカじゃん」
「シカ(lu4)じゃないよ。よく見て」(美)
目をこすってみてみると、確かに「鹿」の字の下には几の字がありました。ちょっと誇張して書くなら、
「鹿
几」
こんな字になるのでしょうか。まあ字は分かっても「じいず」が何かは分からず終い。
ただ、
「保護動物ね」
「左脚だけで200元もするね」
「家の周りからもういなくなってしまったね」
というくらい貴重で、それでいて少なくとも彼女の実家がある四川省南充においては庶民が春節を過ごすには欠かせないものらしい。
「で実際には美味しいの。それとも珍しがってるだけ?」
と聞けば、何故か口を右手で隠し、小声で
「おいしいね」
とにやり。
うん。あんたも中国人ということなのですね。
「でもこんないけないことしていたら、来世はきっとじいずになってにんげんにたべられてしまうね」
なんて小難しいこと言ってきたんで
「じゃあ今からあなたの左脚を200元で予約します」
と答えたら反応してくれませんでした。悲しいね。
さて、帰宅後。
さっそく「じいず」とはなんぞや?
きょん でした。
でも
「きょん」っていわれてもねぇ。
わたしら世代は「きょん2」しか思い浮かびません。
せつないかたおもい。あなたはきづか〜な〜い♪
◎参考写真:会議室できょんを食べても、い〜じゃん。見逃してくれよ!
学術的なところではこちらもどうぞ。
→http://homepage1.nifty.com/wildlife-chiba/mammal/muntjac.html
生まれた年から妊娠することが可能だという、こう見えてなかなかおませさんなきょん。美人秘書の情報は間違いなく、やはり省級重点保護動物だそうです。
中国は農業大国といわれてますがやはり大陸。手土産に持っていった牛肉タタキなどは所詮ポン酢が出回った後からの浅はかな日本流肉料理。やはり肉食文化においても日本の遙か上を行く中国、そして中国人民(=美人秘書)なのでありました。
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分かっていただけましたでしょうか(笑)
中国人の食への追究心は際限なし。犬の肉や熊の手のひら、サソリ、アルマジロ、虎のあそこだってどん欲な食欲の前には皆平等。とうぜん省級保護動物「じいず」でもお構いないわけで、入手先について訪ねてもこの元美、
「春節のときに知り合いから分けてもらったんです」
と述べるだけで多くは語らず(笑)。それどころか、
「塾長とitoyamaさんに食べてもらいたかったから特別ですよ」
とまるでこちらが要求したような口ぶり。もちろんわたしらはれっきとした肉食動物、業深き生き物でありまして、甘んじて同罪のそしりはお受けしますよ。
「ホントによく手に入ったね。貴重なんでしょ」
「はい、だから一年にいっかい、春節だけね」
年一回ならば食べていいのか、という議論はさておき、そんな「末端価格」で200元はするらしい片足をばらしてゆでること約一時間。
こんな塊をいったいどうやって食べるのか、と観察を続けていたら、今度は細くほぐし始める元美人秘書。そりゃそうだよね、これを骨ごとまんまかぶりついたらチベットの牧民だもんなぁ
でもってさらに黙々と作業を続けるんだけど、あとは味付けだけという段階になって
「さっきからお母さんに電話しているけど電話に出ないね。わたしじゃ分からない。どうしよう」
とちょっぴり困ったご様子。
元美一族でも年一回しかふるまわれない貴重な珍味への味付けについてはまだ、ご母堂からその秘伝の技を授けられてはないそうで、惜しいことに元美家おふくろの味は断念、近くの総菜屋で仕入れてきた正宗四川の味「麻辣ソース」に絡めていただくことになったのでした。
そうこうしているうちに本日の主役、塾長もお仕事から帰宅。さらに塾長宅居候組としてはわたしの後輩にあたる民族大日本人留学生SHI-Geさんや、これまた久しぶり登場ジエジュンジュさんなども集まり、都合7人の誕生会が始まったのでした。
成都の安心ブランド「安徳魯森」のバースデーケーキに灯されたろうそくを勢いよく消して、
「生日快楽! ハッピーバースデー!」
と拍手、喝采。で、あとは飲めや、食らえや。
思えばこれで3年連続となる塾長生日晩会出席。
それも誕生日の期間、同じ成都に暮らしていたという事実は一回もない上での「偉業達成」。初年度は北京、2年目はチベット、そして3年目はインドから「たまたま成都に来ていた」タイミングでの記録更新だから、その価値も高し。
そのタイミングに合わせて訪問の予定を組んだという事実はあるんだけど、それでも学業その他優先すべきものをすべて見限ってまでの狼藉というわけではなく、もうここまでの腐れ縁ならば、こっちだって偶然がどこまで続くのか楽しみにするしかないというわけです。
インドからはるばる生日礼物(誕生プレゼント)として運び込んだ超重ガネーシャ像も、まもなく現地日系企業の経理(現地責任者)につかれる塾長の生意興隆(商売繁盛)を願ったという本来の意味よりも、「ゾウの像」ということで駄じゃれ的に喜んでもらいまして、運び屋としても存外の喜び。
もちろん、本日は塾長以上に主役の座を奪い取った「きょん」もその「幻の味」ぶりをいかんなく発揮してくれました。
特製四川ソースに絡めて食べた手前、四川名産「張飛牛干肉」とどこが違うのか、というような味になったことは否めませんが、あんな細身の体のどこからそんなに隠していたのかというくらい、かめばかむほど獣肉ならではの深い味がしみ出てくるわけで、これなら四川の名牌「藍剣口卑酒(528ビール)」もどんどん進みます。
こんな味を引き出せる中国人の食への執念たるや、やはり奥が深すぎ。歴代皇帝も含めて珍しい物には果敢に挑戦、その伝統から今でもご禁制の諸々に伸ばす手をなかなかひっこめようとしない気持ちも理解できたようなできないような。
とにもかくにも、きょんに感謝。
もう二度とこんないけないことはいたしませんから、安らかにお眠り下さい。
by itoyamamakoto
| 2007-05-10 15:42
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