2005年 11月 14日
民族の宴ここに最高潮 |
またしても「民族とは何か」を考えさせられました。
民族大新校舎(成都市郊外双流県)にて、本日午後7時半から開かれた「外語学院2005級迎新晩会」でのこと。
平たくいうと、新入生歓迎ぱーちー。
民族大外国語学院には英語科と日本語科があるんですが、そこに9月に入学したばかりの1年生を歓迎しようというものらしい。
日本語科教師「塾長」の一声によって、わたしとレンイエンは呼ばれもしないのに金魚のふん。
イベントならとりあえず首突っ込んどけ
と押しかけたわけです。
目的はただ一つ。
日ごろ本校舎に出てくることない新入生の鑑賞、品定め。
噂に聞こえてくるところでは、どうやら今年の一年生、豊作らしいんですわな。
ほら。やだな。
勘違いしてもらっては困りますよ。
わたしたちは特定の目的のため、タイ北部やカンボジアへの旅行を繰り返す人たちとは違います。
そう。われわれは学究の徒。
ホジェン。プミ。コーラオ…。
分からん人にはたぶん呪文のような言葉。
実は中国の少数民族の名称。
日本語科一年生にはこれらマイナー系少数民族が目白押しなんです。
とくに注目度ナンバーワンは「ホジェン族」。
各種統計によれば、全人口は約3000人ちょい。
中国55の少数民族中3番目に少ない民族とのこと。
「主にロシア国境付近に暮らし、漁業を生業にするもの多し」
です。
こんな希少な族が成都に来とるわけ。当然ながら13億分の3000であるばかりか、一億近い四川省の中にあってはいても数人くらいなはず。
パンダより断然珍しい国宝級の出会いが我々を待ち受けている
そう思うと通常の神経を持つ人そこのあなた、当然いても立ってもいられなくなるでしょう?
さらに若干メジャー系のモンゴル族にも期待の新人がいます。
その名もサルラちゃん。
まさに草原に吹くそよ風のような透明感あふれた名前に相応しく、彼女も「なんちゃって度0%」の超本格派の「族」らしい。
出身地は内蒙古自治区。
そこまでは普通なんですが、注目すべきは自己紹介書に自ら書いた住所。
「内蒙古自治区大草原出身」
普通ならありえない。
でも住所不定騎馬民族ならありえちゃう。
さらに趣味の欄。
「騎馬」
乗馬ですね。
さすが遊牧民。
あっでもここにも続きが…
「賽馬」
競馬ですね。
乗りこなすだけじゃ民族の血は治まらないってことです。
「ホジェンとなに話そうか」
「やっぱあなたも自然神として熊を信仰してますか、っすか?」
「挨拶とか教えてほしいよね」
「それよりサルラ。もう都会に毒されたらしいよ」
「どういうことっすか?」
「塾長情報では男できて、ピアス開けたらしい」
「えっ。もとがピュアなだけに染まるのも速そう」
「そう。民族絶滅の危機なのよ」
そんな会話を行きのバスの中で繰り広げ、モチベーションを沸点近くまでどんどんあげちゃうわたしたちなのでした。
会場は学生食堂4階の「活動室」。
すでにここは族のワンダーランド、民族のジャングルに足を踏み入れていること。何があっても驚いてはいけない、と心の準備をしておくべきでした。
なんといきなりの遭遇。
「ほら、あれホジェンの娘だよ」
塾長の言葉。あっ。ちょっと待ってわたしらまだなんにも準備が…。
人気スターを前にしたおっかけみたいにどぎまぎするわたしとレンイエン。
お構いなしに
「紹介してあげるよ」
と彼女に声を掛ける塾長。
で、引っ張られてきたのは毛皮の民族衣装に鮭の薫製を手にした、まるで博物館にいそうな超本格派ホジェン族。
ではなく、チェックのミニスカートに白のワイシャツ、ネクタイをルースにしめて、マスカラばんばんに化粧をほどこした田舎女子高生的姿。
「あっ」
といったまま声のでなくなるわたしたち2人。
ところがまたお構いなしに我々を紹介してくれる塾長。
「このふたり、わざわざホジェン族の本読んで研究してんだよ」
「いや塾長もういいから。」
故郷の黒竜江省からは数千キロ。民族のしがらみからようやく抜け出し、この四川の血で初めて若者としての自由を謳歌しようとしているのか。とにかく意識的に族の香りを消し去ろうとしてるとしか思えないほどふつうチック。
それってぜったい族的なオシャレじゃない
思いっきりの「なんちゃって族」にこっちの落胆も大きければ、向こうの反応も微妙。わたしたちの思いも分かっちゃったようで表情ちょっと複雑そう。
とくに人類学を志すレンイエンのショックは相当のようで、膝ががたがた震えてたりする(誇張はあるけど真嘘ではなし)。
とにかく開演時間に救われ、タイムアップを迎えることができたのでした。
さて。
晩会(パーティー)といいつつ実は演芸会のようなもので、一番奥はステージ。その前には客席150席ほどが並べられた室内。
にぎやかなダンスで幕を開けました。
日本でも夜の公園とかで若もんが踊ってるあれの矮小版。
族の総本山としてこれがずっと続くわけがない。
司会者登場、来賓紹介とお決まりコースが始まりました。
「日本語科の○○先生(中国人)でございます」
(会場:わぁー、わぁー、パチパチ)
「日本語科××先生(塾長)でございます」
(会場:せんせー、パチパチ、せんせー)
「西南民族大学の留学生2人でございます」
(わたし:うよぉっ、これっておれらじゃん。)
(会場:パチパチ、ひゅーひゅー、パチパチ)
こんな丁寧なようでいて、不躾な紹介を受けたのは初めてですが、鳴りやまない拍手に答えるのは、逆転ホームランを打ったプロ野球選手同様、来賓の義務であります。
席を立って振り返って、後ろの観客席に向かって深々と頭を下げるわたしとレンイエン。
100人以上の観衆。ここは新校舎だから1年生か2年生のはず。ほぼ誰も知り合いはいません。でもこのどこの馬の骨かも分からないような輩2人にまで割れんばかりのこの拍手。
とりあえず盛り上がれるもんありゃ盛り上がっとけ
そんな若い勢い+お祭り好きな族の本能。わたしたちにまで及んだ拍手攻勢にはたぶんそんな背景があるんじゃないでしょうか。
「相当たまっとるな。こりゃ面白いことになるかも」
でいよいよ本格スタート。
用意されたのは十数の演目。
大まかには民族系と漢族系。
民族系はまさに民俗芸能の発表会です。
チベット族。
チベット舞踊にチベットカラオケ。だらしなく伸ばした裾の長い民族服をひらひらさせながら回転してます
朝鮮族。
チマチョゴリ姿で昭和50年代を彷彿とさせるムード歌謡を歌い上げました。
で、圧巻だったのはモンゴル族による蒙古舞「沙楚拉」。
サルラに近い「サスラ」なんですが本人の出番はなし。
でも女の子4人による踊りは雄壮かつ華麗。騎馬民族の勢いをそのまま表現したような身のこなしに、我々2人。何度も「うおっ」とか「格好いい」とかうなってしまったのでした。
もちろん漢民族も負けてはおりません。
印度舞、拉丁舞のセクシーダンスもあれば、耳をつんざく高音域の民歌あり。体型ドラえもんですが目をつぶればそっくり、民族大の周傑倫も現れました。
漢民族側の極めつけは、詩の朗読。詩朗誦「我愛祖国、我愛母語」。
◎参考写真1:二人とも日本語科1年生。ってことは19歳?ありえない…
詩の朗読が演芸のジャンルとして成り立っているところもすごいですが、なにより彼のヴォイスにKO寸前。
「ウォ〜ダ・ム〜ユィ〜」
「ウォ〜ダ・ム〜ユィ〜」
と何度も繰り返すのですが、その声は本気を出したときの藤岡弘くらいにとってもセクシー、マダムキラー的です(笑)。
こんな隠し球を持ってるなんて漢族もさすがだな。
そう思わざるを得ませんでした。
まあ、イベント的には大団円ですよ。
◎参考写真2:みんな全てをやり終えた表情。カメラマンの要求聞く耳なし
でも。
本当の族にあいたいという我々の願いが完全に叶ったわけでもなし。
やっぱりとうとう最後まで姿を見せなかった、
サルラに期待。
by itoyamamakoto
| 2005-11-14 17:46
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